奥只見(新潟) 大沢山(1522.8m)、青木山(1729.3m)、池ノ岳(2080m)、ミョウカン山(1642m)、入り黒沢山(1607m)、黒沢山(1332.8m) 2017年5月3〜5日  カウント:画像読み出し不能

所要時間

5/3 4:43 銀山平−−5:13 雪壁の車止め−−5:29 除雪終点(大ナラ沢)(アイゼン装着)−−6:13 グミ沢トンネル西口−−7:06 840m鞍部(休憩) 7:16−−8:59 平石沢(休憩) 9:57−−10:15 雨池橋−−10:59 小屋−−11:10 中ノ岐川を渡る橋−−12:16 二岐沢を渡る橋の手前(休憩) 13:01−−15:01 1432m峰−−15:58 大沢山北東1460m肩(休憩) 16:05−−16:27 大沢山−−17:04 1396m峰を巻く−−17:13 1390m地点(幕営)

5/4 4:49 1390m地点−−5:34 1580m峰−−6:12 1670m峰−−6:50 青木山(休憩) 7:05−−7:47 1816m峰−−8:19 1877m峰−−8:22 1840m鞍部(休憩) 9:03−−10:05 池ノ岳 10:12−−10:39 1886.7m三角点峰−−11:20 1634m峰−−11:38 ミョウカン山(休憩) 12:44−−13:13 入り黒沢山−−13:33 1520m肩−−14:09 1366m峰−−14:59 1364.9m三角点峰(休憩) 15:37−−16:03 1324m峰−−16:21 1313m峰南の1270m鞍部(幕営)

5/5 5:29 1313m峰南の1270m鞍部−−5:42 1313m峰−−6:19 黒沢山 −−6:40 1160m鞍部−−7:00 国道の橋−−7:05 雨池橋(休憩) 7:36−−9:20 湯ノ子沢(休憩) 9:38−−10:26 840m鞍部(休憩) 11:36−−12:15 グミ沢トンネル東口−−13:09 除雪終点(大ナラ沢)−−13:31雪壁の車止め−−14:03 銀山平


場所新潟県魚沼市(旧湯之谷村)
年月日2017年5月3〜5日 2泊3日幕営
天候連日の晴れ、風弱い
山行種類残雪期の山
交通手段マイカー
駐車場銀山平船着き場前駐車場を利用
登山道の有無国道、林道以外は無し
籔の有無国道、林道を除いた区間の2,3割は石楠花籔漕ぎ
危険個所の有無・未除雪区間の国道歩きは急斜面のトラバースありでアイゼン、ピッケル必携
・雨池橋より上流の林道はさらにトラバースが厳しい。特に二岐沢左岸林道は雪面の斜度がきつい部分あり。雪が締まった時間帯の通過は要注意
・入り黒沢山北直下は東側が切れ落ちた岩峰。西側も急斜面で藪で視界が無くロープ無しで通過可能なルートは1本しかない
・黒沢山南直下は東側が切れ落ちた崖でその直上を登るが超急勾配の濃い石楠花籔。山頂直下は雪壁。ここは下りで使ったらルートを見いだせないと思う
山頂の展望大沢山:良好
青木山:良好
池ノ岳:良好
ミョウカン山:良好
入り黒沢山:東半分が開ける
黒沢山:樹林で展望なし
GPSトラックログ
(GPX形式)
1日目
2日目
3日目
コメント平ヶ岳から北に派生する二岐川を挟む尾根を銀山平から周回。池ノ岳を除きネットで記録があるのはDJF氏が無雪期に登った黒沢山(クリックでジャンプ)のみという超希少な山ばかりで情報の無さと往復の国道歩きの長さがネック。予想外に細い尾根が多く石楠花籔漕ぎに悩まされた。特に入り黒沢山の下りと黒沢山の登りは危険地帯で岩壁帯に絡んだ藪の助けが必要で、特に下りでは藪で視界が制限されルート判断が非常に難しい。最後の黒沢の下りも安全か確信が持てずエスケープルートも無くハイリスクのコースだが達成感は格別なものがある。体力も3日間で完全放電状態で、出発前から偏頭痛による極度の食欲不振で行動中も食欲減退で痩せた体がさらに痩せてしまった(笑)


地図クリックで等倍表示
1日目のルート断面図(銀山平〜大沢山の少し先)
2日目のルート断面図(大沢山の少し先〜池ノ岳〜黒沢山手前)
3日目のルート断面図(黒沢山手前〜銀山平)


大型連休後半初日の銀山平駐車場 釣り客送迎用マイクロバス
釣り客はここから湖岸へ下る 現在の船着き場
下荒沢から見た荒沢岳〜本城山 下荒沢の一つ先の沢で雪のバリケードあり
除雪作業車群。連休中は動いていなかった 大ナラ沢で除雪終点
重い12本爪アイゼン装着 国道は斜面トラバースが多い
グミ沢トンネル西口 トンネル内部は冬季は資材置場
グミ沢トンネル東口 こんな雪壁もあり
840m鞍部。ここだけまとまって雪が無い 東側に入ってもデブリを越える個所も多い
平石沢の路面で休憩 雨池橋手前で足跡登場
雨池橋の案内板 雨池橋(西側から見ている)
中ノ岐川沿いの林道もこんな状況 熊避け鈴が落ちていた
まだまだ雪が続く 対岸にワイヤーが2本張られた小さな建物
渡し籠らしい 二岐沢出合。水量多い
結構新しそうな小屋。足跡はここまで ガスまである
これから歩く二岐沢沿いの林道。結構ヤバそう 中ノ岐川を渡る橋
二岐沢沿いの林道に突入。これくらいの傾斜なら問題なし ここが一番急
崩落した橋 橋の基部は残っている
この尾根を登ることに。その前に休憩 二岐沢を渡る橋
イワウチワ 標高1070m。ワイヤーがかかった木
標高1150m 標高1180m.。裏側にも名前あり
東側の展望
標高1270m 1410m肩に乗る
この高さでは意外に藪が薄そう 1432m峰から見た大沢山
1432m峰の下りは雪が落ちて石楠花籔漕ぎ 標高1410m
標高1400m。露岩上に出る 露岩を降りて見上げたところ
1370m鞍部から登り返し 1390mで尾根幅が広がると雪が利用可
1410mで休憩 大沢山向けて急雪面を上がる
大沢山直下は巨大雪庇 大沢山山頂
大沢山山頂からの360度パノラマ展望(クリックで拡大)
幕営場所を探しながら下る。幸い、ほとんど雪が使えそう 地形図で東側がガレてる区間は藪漕ぎ
ワイヤーが何本もかかった木があった 藪地帯突破。残雪上は超スピードアップ

大沢山を振り返る

1340m鞍部より先は雪庇後退
西側は雪が残って藪を迂回 1396m峰も西を巻いた
1380m鞍部 1380m鞍部で幕営
2日目行動開始 1580m峰向けて登り始める
標高1480m 標高1540mのブナ。名前が彫られている
裏側は「上越開発」 1580m峰
1550m鞍部から南を見ている 1650m峰
1630m峰から南を見る。雪庇状態が悪い 西側を巻く
1613m鞍部から見た青木山 青木山山頂
青木山山頂からの360度パノラマ展望(クリックで拡大)
青木山南側から見た池ノ岳 1816m峰
1816m峰から見た池ノ岳 1790m鞍部付近も雪庇崩壊
西側を巻く 1877m峰から見た池ノ岳
1840m鞍部 標高1940m
標高2040m 池ノ岳山頂。あまりにも平坦で正確な山頂位置は不明
池ノ岳山頂からの360度パノラマ展望(クリックで拡大)
池ノ岳から見た東〜南の展望(クリックで拡大)
池ノ岳から下り始めは雪庇なりかけの急雪面
標高1900mから見た北側の展望(クリックで拡大)
1886.8m三角点峰 1886.8m三角点峰から見た池ノ岳
1886.8m三角点峰から北東を見る
1686m標高点から北東を見る
1580m鞍部北側から見たミョウカン山 1600mから見たミョウカン山
1634m峰から見たミョウカン山、入り黒沢山
往路の大沢山は遠い 1600m鞍部を登った所で切株発見。以後尾根上で散見
1640m峰付近は西側を巻く ミョウカン山山頂。僅かな木陰で休憩
ミョウカン山山頂からの360度パノラマ展望(クリックで拡大)
入り黒沢山へ向かう 1570m鞍部から見た入り黒沢山
鞍部からしばらく尾根直上は藪 西側は残雪を拾えた
1590m峰北側でワイヤーのかかった木が登場 ミョウカン山を振り返る
もうすぐ入り黒沢山だが山頂直下も西巻きか 恋ノ岐川もこの辺は雪に埋もれている
山頂直下でやっぱり西側を巻く 入り黒沢山山頂(南を見ている)
入り黒沢山から北を見ている 焦げた枯れ木。落雷か?
入り黒沢山北側は痩せた急な尾根で石楠花の連続 尾根が痩せて激籔でも尾根直上を進む
岩が出てきて西に逃げるがこの先が難しかった
もっと下ろうとしたが絶壁でカモシカの足跡を追って北へ
岩の基部を下りてゆく。ロープ無しで下降可能な唯一のルート
雪が出現すれば安全地帯 振り返ると立派な岩峰
標高1480m。目的の尾根に乗る 標高1430m。黒沢山までネズコの列。悪い兆候だ
標高1340m。やっぱ尾根上は藪で西巻き中 1360m峰手前で尾根が広がり尾根直上を目指す
1366m峰南鞍部のワイヤー 標高1320m。またまた西巻き中
大沢山がかなり近くなった
1330m峰北側の1300m鞍部。西巻き中 1364.9m三角点峰南側。尾根幅が広がり雪に乗る
1364.9m三角点峰で休憩 1350mから北を見ている
1340mから見た1324m峰
また切り株あり ワイヤーも
1330m峰から北を見ている 1324m峰から見た黒沢山。危険個所は見えない
1270m鞍部 1300m峰より先で雪に乗る
1270m鞍部。尾根より一段下がった雪庇で西風避けられる 1270m鞍部で幕営。風除けばっちりだった
坪入山付近から日が上がる 最終日、出発。今日も気温は高め
1313m峰へ登る 雪庇が続かず西へ逃げることに
尾根直上の藪 西側で時々雪が使えたが距離は短い
1313m峰から北を見る また藪に突入。黒沢山までほとんど雪は使えなかった
山頂直下東側は大きな岩壁帯 1270m鞍部から痩せ尾根を急登。石楠花濃い
1290mで傾斜緩むがこの上が超急傾斜 崖直上の超急傾斜藪に潜る。どうにか突破できた
山頂直下は雪壁。滑れば命は無いだろう 黒沢山山頂(最高点)。三角点は探さなかった
黒沢山山頂から西〜北を見ている
これは北尾根 黒沢山山頂を振り返る
北東尾根を下る。これまでの藪が嘘のような快適な雪稜線 黒沢右俣に至る広い斜面。ここを下れば良かったかも
1160m鞍部向けて下る 1160m鞍部から黒沢へ入る
沢の先が見えず不安が大きい 熊の足跡。今年2回目の目撃
ガンガン下るが危険地形無し。滝は全て埋もれる 標高970m。右岸からデブリの嵐
標高870mの黒沢右俣 標高870mの黒沢左俣(下ってきた谷)
標高870mから下流を見る。もう傾斜は緩まる 標高800m。国道の橋が見えた
国道の橋。谷はここまで雪に埋もれる 下ってきた黒沢
雨池橋の上で休憩 840m鞍部でも休憩。おまけにザックの中身を虫干し
帰りもトラバースの連続 グミ沢トンネル東口
除雪終点まで来ると格段に楽になる 重機は2日前から動いていない
雪の土手を越える 釣り客送迎の車は少なかった
船着き場へはフィックスロープあり 銀山平到着。疲れた!
銀山平駐車場から見た荒沢岳東尾根


 平ヶ岳北方の池ノ岳から北に派生する大きな尾根は3本あるが、登山道があるのは一番東の尾根(鷹ノ巣登山口からの道)で、他2つの尾根は道は無い。標高と場所を考えれば無雪期の藪の深さは充分に想像でき、無雪期に歩くのは実質的に不可能だろうし、おそらくネット上に記録はないと思われる。帰ってからネット検索したら発見できたのは無雪期の黒沢山だけ(クリックでジャンプ)で、登ったのはDJF氏であった(笑)。

 残雪期なら勝算があるだろうが問題はアプローチ。隣接した尾根なのでループを組むのが最も効率的で、両者を隔てる二岐沢と中ノ岐川の合流点を起点とするのが理想的だが、残雪期は銀山平までしか車は入れず未除雪の国道352号線をを約12km歩き、さらに中ノ岐川沿い及び二岐沢沿いの林道を約4km歩く必要がある。これだけで半日以上必要で、おまけに帰りもこの歩きが必要だ。

 国道なので林道よりマシと思われるが、残雪期は周囲の斜面と同様の傾斜のトラバースが続くので、場所によっては尾根歩きより滑落の危険性がずっと高い。これは過去の林道歩きの経験からして確実な事実で、距離が長いので危険地帯通過の可能性はさらに高くなる。雪崩の危険もあるだろう。ただし、過去にはDJF氏が銀山平から中ノ岐川沿いの林道終点まで歩いた記録があり、実行不可能なわけではないようだ。日程が確保できる大型連休に実行することにした。

 これは後日知ったことだが、全く同じ日程でDJF氏が平ヶ岳を挟んだ反対側のエリアで残雪期の利根水源山脈掃討作戦を実施した(クリックで初日2日目3日目の記録にジャンプ)。氏の当初計画では2日目にミョウカン山、入り黒沢山登頂も入っていたが、初日の長時間行動(水長沢山往復)により幻と化してしまった。もし氏が実行していたならば池ノ岳〜入り黒沢山間で私とすれ違ったか、そうでなくてもどちらかのトレースを見ることになったであろう。滅多に出会うことのない組み合わせが実現しなかったのは非常に残念だ。

 大型連休後半は天候が安定した日が続くようで、今年はラッキーだ。連休前半にDJF氏が本城山に登った記録が公開され、シルバーラインの時間通行止めは無いことが分かって安心。しかし体調の方が優れなかった。2日前から偏頭痛が出てしまい頭痛と吐き気が続き、自宅出発当日も偏頭痛が出たままで食欲不振であった。車を運転している間に多少はマシになったが夕食を取る気にもなれず、軽く酒を飲んで寝た。

 今年の銀山平は残雪が多く、トンネルから出てすぐ西側の広場も雪に埋もれたままだったし、シルバーラインの数少ない地上の道路から見える周囲の山の残雪状況は例年では見られないくらい残っていた。銀山平には早朝から釣り客の車がどんどん入ってくる。私も船着場前の駐車場に車を置いて出発準備。ただし釣りではないので車止めから一番遠い個所に駐車し、フロントガラスには今回の行程計画を紙に書いて置いておいた。今回は途中エスケープ不可能なコースであり、万が一通過不能個所があった場合は逆戻りするしかない。念のために食料、燃料は多めに持った。さて、計画どおり2日後に出てこられるだろうか。冬装備は重い12本爪アイゼンにピッケルとし、ワカンは持たないことにした。3日前の黒鼻山の雪の状況からの判断だ。気温は-1℃と冷え込んで雪が締まって歩きやすくなるのはいいことだ。

 国道の車止めは外されて、釣り客送迎用の車が出発するところだった。3年前は軽トラの荷台いっぱに人を乗せていたが(法律的にアウトだ(笑))、今年は軽トラの他にマイクロバスが待っていた。この時期の船着場までは歩いても大した距離ではないので、この情景を見ても損したとは思わずに済む。除雪された道は歩きやすいが初日のザックは重い。おまけに冷え込みで路面の雪解け水が凍ってツルツルの場所があり何度かコケそうになった。少しでも水が動く場所は凍っていないのだが。車が数台止まったカーブが船着場位置口で、小尾根にはトラロープがフィックスロープとして張られていた。この時期はダム湖の水面はかなり低い位置にあるので、人間様の足で湖面まで下る必要がある。

 まだ除雪は続くが下荒沢の一つ先の沢で人為的に積まれた雪の土手で車両通行止め。でもまだ除雪区間は先に延びているのはDJF氏の情報で分かっている。除雪は3年前と同じく大ナラ沢までであり、ここでアイゼン装着。最初から急雪面トラバースだが、面倒なので雪に埋もれた沢を渡ってカーブをショートカットする。しばらくは北斜面が続き雪解けが遅くトラバースが続く。雪は締まって歩きやすいがアイゼンが無いと滑って湖面行きだ。ピッケルも役に立つ。グミ沢トンネル内は雪はなく歩きやすいが日当たりはなく風が吹き抜けて寒い。トンネル内部は冬の資材置場で、各種標識が両側に山積みだ。なお、トンネル西側入口の積雪状況を3年前の写真で比較してみたがほとんど同一だった。

 トンネルを抜けて再び雪のトラバース。国道が岬のように湖に飛び出した862m峰直下を通過する場所は広く雪が溶けていたが、東側に回り込むと再び雪に覆われる。ただし斜度は北側よりいくぶんマシになった。ここまでで国道歩きはまだ半部程度で先は長い。北斜面より東斜面の方がデブリ押し出しが圧倒的に多く、まだ落ちてこないかと緊張する。湖面では釣り船の姿があちこちに見られる。あれで雨池橋まで行けたらなぁと考える。

 雨池橋まで休まず歩こうと思ったが予想以上に疲れて、平石沢で路面が出たところで休憩。雨池橋手前では雪の上に新しい足跡が登場。DJF氏の記録によればこの先の小屋までだろう。ビブラム底とスパイク長靴の2種類の足跡だった。雨池橋から先は林道に入るが道幅が狭まった影響か日当たりのいい南斜面なのに残雪は多くトラバースが続く。

 中ノ岐川は水量が多く渡渉できるような状況ではないが、二岐沢出合付近で小さな建物が登場し、対岸に2本のワイヤーが張られていた。小屋の近くのワイヤーには何かぶら下がっていて、どうやら人力の渡し籠らしかった。しかしこんなところで対岸に渡って道があるのだろうか?

 しばらくは対岸は岩壁帯だが二岐沢出合を過ぎるとこれから歩く二岐沢左岸の林道が登場。しかし予想通り雪に埋もれて斜面に同化している。しかもかなりの傾斜に見え、ここを通過できないといきなりの計画頓挫だ。その場合は逆回りで黒沢山から登ることにするが、帰りは大沢山の尾根から黒沢山の尾根に乗り移る必要があり、無駄なアップダウンが生じることになる。さて、通過可能だろうか?

 予想通り、足跡は緑色の屋根の小屋までであった。小屋の入口にはプロパンのボンベと薪の山が見えた。無雪期は車が入れるので重量物運搬も可能だからガスボンベがあるのだろう。さらに林道を進んで立派な橋で中ノ岐川を渡る。橋があってよかったぁ。対岸はしばらく平坦だがすぐに岩壁帯を削った区間に突入し、雪の斜面のトラバースになる。下から見上げるより傾斜は緩く国道と変わらぬ状態だったが、2箇所のカーブだけ傾斜がきつい場所があり、ここだけ慎重に通過する。川へと林道の高度が下がっていくと傾斜も緩やかになっていった。途中の沢では橋が押し流されて二岐沢に崩落していた。今は沢は雪に埋もれて横断できるが、無雪期はもしかしたらここで通行不可能かもしれない。

 やっと平坦区間までたどり着いて休憩。200mくらい先に二岐沢を渡る橋が見えている。対岸のヒノマタ沢は雪に埋もれているが両側斜面は雪のないえらい傾斜だ。やはりこの時期の西向き斜面は雪が少ない。

 やっとここからが本番の山登り。重いザックを背負って西側の小尾根に取り付く。ここは曲沢左岸側のはずで、1432m峰北側に突き上げるはずだ。傾斜はきついが効率的に高度を上げられる。東向きの尾根なので雪は比較的多いが所々で雪が切れた場所があり、見えている藪は深くはなかった。この標高だと無雪期でもそれほど問題ないようだ。地面が出た場所ではイワウチワがあちこちで咲いていた。今シーズン初めて見たが、考えてみれば今シーズンは地面が見えない山ばかりだったからなぁ。

 標高1070mではワイヤーがかかった木が登場。幹には横板が打ち付けられていて梯子代わりだろう。しかし周囲に植林はなく目的は不明だ。標高1180mには幹に名前が彫られたブナあり。表裏の2箇所に彫られていて単独ではなく複数人で登ったようだ。まあ、登山目的とは思えないが。高度が上がると連続して雪歩きになる。もう気温が上がって雪は緩んでいるが、アイゼンでも足首までしか潜らず快適な雪の状態と言っていいだろう。ワカンを担がなくて正解だった。

 やや傾斜のきつい雪面を登りきると1432m峰北側肩に乗り上げ、やっと往路の主尾根に出ることができた。既に時刻は午後3時、この先あまり長く行動していられないので幕営適地を探しながら歩くことにする。

 1432m峰からは正面に大沢山が見えるが、山頂付近は巨大雪庇を帽子のように纏っている。雪庇はかなりの傾斜に見え、その雪庇に達する前の斜面も結構な傾斜のような。下り始めると尾根が痩せて両側の雪が落ちてしまい、いきなりの藪漕ぎだ。まさかここで藪漕ぎに遭遇するとは予想していなかったのでがっかりだ。尾根上はそれまでの明るいブナ林から大きなネズコに変わり、地面付近は石楠花が中心で笹、潅木が混じる。やはり石楠花が一番邪魔でアイゼンが引っかかり鬱陶しい。この藪は1390m峰を越えて大沢山への登りまで続いたので、最初にアイゼンを外してしまえばよかった。

 標高1400mで尾根が左に曲がるが、ここで地形図に表現されない小さな露岩が登場。藪に覆われて上からは状況がわかりにくく下れるか心配だったが、垂直の岩壁ではなく石の集合体で手がかり足がかりがあって下ることができた。ここだけは藪が開けて歩きやすかったがその後は再び藪に突入。部分的に薄いところはあるが、基本的には石楠花をできるだけ迂回しながら進んでいく。

 大沢山への登りが始まる場所で尾根幅が広がり雪が連続するようになった場所で休憩。時間的に次の休憩は本日の幕営地だろう。水は尾根取り付きで500ccほど持ったが全く不足した。天気がいいのは助かるが水の消費が激しい。

 休憩を終えて広いが傾斜がきつい雪面を登っていく。重いザックが肩に食い込むが藪漕ぎよりはずっといい。標高1490m等高線に乗り上げて進路を左へ。最後は幅広い雪庇を急登。端から離れていてもあちこちにクラックが入っていた。ここは立ち木がなく展望がいい。そして大沢山山頂到着。

 ここも立ち木はなく展望ピーク。もっとも、今の時期は厚さ何mの雪庇上にいるのか不明だが。三角点は雪庇の下で人工物は一切見当たらない。先ほどの1432m峰は低く見えている。南は1580m峰から池ノ岳にかけてはほぼ雪が続く尾根が見えていて一安心だが1396m峰までは東側の雪庇が落ちているのが見える。西側に雪があればいいが、無ければ尾根直上の藪漕ぎだ。帰りに歩く二岐沢右岸尾根はブナではなく針葉樹が目立つ。これは悪い予兆で、尾根が痩せて雪が落ちる場所に生えるのがこのエリアでは針葉樹のネズコなのだ。尾根の左右どちらかに雪が残っていればいいのだが、先が思いやられる。特に入り黒沢山北側直下は真っ黒で急に見える。

 まだ時間はあるし、山頂では風除けがなく幕営不向きなので先に進むことにした。今は無風だがこれが続くとは限らない。特に朝は西風となることが多くそれが避けられる場所を探す必要がある。大沢山からの下りはどうにか東側の雪庇が残っている区間が続いたが、尾根東側に崖マークがある場所は雪が落ちてしまい、尾根直上や雪が無く藪が露出した西側を迂回した。崖マークを過ぎると再び東側に雪庇溶け残りが登場し1340m鞍部到着。この付近の雪庇は少しズレ落ちて尾根より低くなっていて、西風を避けられる地形で幕営適地と判断、本日はここで行動終了。行動時間は12時間を越えて長かった。まだ日は出ているが、水作りなど時間がかかるので就寝は真っ暗になってからか。

 さすがに新雪は見られず表面の汚れた雪を削って水作りに使ったが、ここは樹林帯の高さなのできれいな水にならないのは仕方ない。でも腹を壊すような水質でもない。2.5リットルほど雪を溶かしたが結構な量のガスが必要。酒を飲んで寝たが予想よりも気温の低下はなく、暑くて夜中に起き出すくらいだった。ダウンジャケットを脱いで再び就寝。この夜も風はごく弱いくらいだった。

 翌朝、3時に起床するとテント内に結露なし。これは外側も結露していないことを意味し、微風が当たっていたことが良かったのかもしれない。朝の冷え込みは弱く、昨日のような締まった雪は期待できないかもしれない。急斜面でない限りは雪は締まっていた方が助かる。朝飯を食ったが今日も食欲不振が続き、いつもなら腹八分目くらいにしか感じないのが、今朝は残さず食べきるのが精一杯だった。昨日もいつもの朝飯を食いきれなかったなぁ。この調子だと背負っている食料はかなり余りそうだ。

 出だしから雪面の登りなのでアイゼン装着。今日もザックが重い。しかし尾根東側の雪が使えるので藪漕ぎはないのは大助かり。1396m峰は西側を巻いてしまい1580m峰へと高度を上げていく。ここも雪が繋がって藪漕ぎ回避。この辺でアイゼンを脱いでザックの中へ。雪はそれほど締まっていないので、ある程度の傾斜でもアイゼンは不要だろう。今回の12本爪はグリップはめちゃくちゃいいのだが重さはかなりあり、おそらく片足で1kg近いだろう。感覚的にはスノーシューより重いくらいで、アイゼンの有無で足への負担が大幅に異なる。ザックは重くなってもできるだけ足先は軽い方が体力的には有利だ。この日はこれ以降はアイゼンを使わなかった。

 高度を上げて尾根幅が広がると明るいブナ林に変わる。標高1540mではブナの幹に名前の刻印を発見。裏側にははっきりと「上越開発」と読取れた。ここは中越なのだが(笑)。会社名が入っているので登山目的ではなかったのだろう。1580m峰東側の肩に上がり右へと針路変更。1580m峰は南北に長い雪庇に覆われていた。ここまで来てもまだ次の山頂である青木山まで離れて見える。

 この先は藪から開放されて残雪期らしい雪尾根歩きが楽しめる場所がほとんどだ。これを期待して出かけてきたのだからこうでないと。尾根上で藪を漕いでいたのでは残雪期に来た意味がなくなってしまう。1650m峰を越えて1630m鞍部に達すると雪庇が落ちて西斜面へ迂回。ここは残雪があるので藪漕ぎ不要だった。西斜面迂回は1670m峰まで続いた。その先は快適な雪稜に戻ってくれた。

 1613m鞍部に急降下、ようやく青木山への最後の登りとなる。この尾根も幅が広く快適な雪稜が続き、植生は何時の間にかブナからシラビソへと変わっている。尾根東側は雪庇が続き木は無く西側に立ち並んでおり、東の展望はあるが西の展望はあまり無い。ただし西側が開けた場所もある。

 傾斜が緩んで青木山山頂に到着。このピークは南北に細長く明瞭な高まりがあるわけではない。今は雪庇上が最高点で周囲に人工物は見当たらない。三角点は数mの積雪の下だろう。ここで休憩。今日は西寄りの風が少しあって体の放熱に最適で、日が高くなり気温が上昇する時間帯には快適だ。

 青木山から池ノ岳間には2つのピークがあり、その先に広大な斜面を持つ今回のルートで最高峰の池ノ岳が待つ。池ノ岳は以前、鷹ノ巣登山口から平ヶ岳を往復した際に山頂に立っているので登らなくてもいいのだが、巻こうにも北東側斜面は傾斜がきついため素直に尾根上を行った方がいいと判断して山頂を目指す。1816m峰を通過して1790m鞍部付近は東側が切れ落ちて雪庇も崩壊しているので雪の残った西側を巻く。以降はほぼ尾根上を行く。

 池ノ岳が近づくとシラビソの高さが徐々に低くなり、尾根幅が広がって尾根というよりもただの斜面に変わる。ガスった時にこれを下るのはかなり難しいだろう。山頂手前でハイマツ、石楠花が顔を出すが左右に迂回可能だった。ここまで来れば山頂は目の前だ。

 池ノ岳山頂は平坦でやたらと広く、どこが山頂なのか全く不明の地形だ。この地形ではどこも標高は変わらないので、どこでも山頂でいいだろう。夏道の形跡はゼロで標識類は完全に埋もれているようで頭も見当たらない。もちろん山頂の池も跡形も無い。ここまで来ると平ヶ岳は近いが、この先の行程の長さを考えたら立ち寄るのはちょっと無理。それにもう3回も山頂に立っているので今回はいいだろう。計画段階では鷹ノ巣山へ立ち寄ることも考えたが既に時刻は午前10時で、空身になってここから恋ノ岐川を越えてショートカットしても往復には3時間はかかりそうだ。それだけの時間と体力をここで使うよりも、無雪期に登山道から藪の中を往復した方が楽だろう。

 池ノ岳まで来て初めて奥日光方面の山が見えた。あちらはシラビソ樹林が深いので、日光白根を除いて白さはほとんど見えない。見えている最南端は袈裟丸山であった。

 ここからは後半戦に突入。登山道のある尾根ではなく一つ西側の尾根に向かう。出だしは尾根形状があいまいでただの斜面であり、向きが東側なので雪庇ができかけて急斜面だった。恐る恐る覗き込むと傾斜はきついが垂直ではなく、しかも傾斜が緩む場所まで立木等の障害物皆無の広大な雪原で、もし滑落しても衣類が濡れるだけで怪我はしなさそうだったので安心して前を向いて下れた。雪も適度に緩んでいるのでつぼ足の踵で充分にブレーキが効いた。緩斜面帯に入って振り向くと、急斜面に一直線に延びる足跡あり。ここに足跡を残したのは私が初めてだろうか。

 池ノ岳直下から見る限りではミョウカン山までは尾根幅が広がり藪突入は無さそうだが、入り黒沢山から向こう側は急激に高度が下がって手前の山々が邪魔になって見えなかった。でも往路の尾根からは入り黒沢山北側の尾根も真っ黒けで結構な傾斜の下りに見えたが、ここは藪漕ぎかなぁ。その先の尾根も針葉樹が立ち並ぶ区間が長かったので、入り黒沢山より先は快適な雪稜歩きとはいかないかも。

 1886.7m三角点峰も池ノ岳のように平坦で明瞭なピークは無く三角点位置の推定は難しかったし、雪上にはその形跡は皆無だった。ここから1580m鞍部まで一気に高度を下げるが、ここも雪が続いて快適だった。

 1580m鞍部の登り返し出だしは尾根っぽくなくタダの斜面状だった。ちょっとばかり登ると尾根地形が復活する。ミョウカン山南端の1640m峰手前は藪が出ていて西側を巻く。巻き始める手前で古い切り株を発見。人跡未踏と思われた往路の尾根にワイヤーがあったり文字が刻まれたブナがあったりと人の形跡があったが、こちらの尾根にも人間活動の形跡があった。周囲は自然林ばかりで植林は無いが、どういうわけだろうか。この後も切り株は尾根直上の所々で出現し、ワイヤーが何本もかかったネズコも2箇所で見かけた。その昔、小規模ながら自然林を伐採、搬出したのだろうか。ただし、切り株の腐食具合からして数10年以上前のことだろう。

 ミョウカン山南端1640m峰を巻いて北側鞍部で尾根上に復帰した。地形図ではミョウカン山は3つの1640m等高線に囲まれたピークがあり、真中に1642m標高点が取られている。現地で見た限りでは南端のピークは明らかに低く、真中ピークと北ピークは同じくらいの高さに見えた。北側ピークまで僅かな距離だが体力的に足を伸ばすのが面倒なので地形図に従って真中ピークを山頂とした。日差しが強くブナの木陰で休憩。

 休憩しながら今後の行動を思案する。今日の出発時点ではもしかしたら今日中に国道まで下れるかと考えていたが、今の時刻と残存体力を考えるとそれは無理そうで、黒沢山の手前で幕営となりそうだ。

 ここで地形図をよ〜く眺めると、黒沢山山頂直下南側は等高線の密度が尋常ではないことに気付いた。東側は崖マークがあるのは知っていたが尾根上には無いので特に気にする場所ではなかったが、この等高線密度では間違いなく崖だろう。ここを突破できるだろうか? もし突破できない場合のエスケープはどうしようか? これは事前に想定していなかった。持っている地図は必要範囲内のみ印刷したもので、特に恋ノ岐川沿いの範囲は入っておらず、こちら側に落ちる尾根を使おうにも使えない。となると二岐沢側に降りるしかないが、こちらはどの尾根も傾斜がきつそうだ。しかも使えるのは往路で林道から尾根に取り付いた少し先で橋を渡った対岸(右岸)付近のみだろう。二岐沢は雪解けで水量が多く林道が設置されていない川岸に下り立っても沢沿いに下流へ歩けるか大いに不安があるからだ。そうなると1324m峰から南西に落ちる尾根くらいしか候補地は無い。この場合、またあの林道トラバースを歩くことになり、雪が締まった時間帯の通過は避けたいところだ。また、本当に下れるのかは行ってみないと分からず、こちらもリスキーだ。

 とにかく今日は黒沢山にできるだけ近い場所まで進んで幕営、明日朝に黒沢山を目指し、どうしても登れないようなら1324m峰南西尾根を下ろう。帰ってから地形図を見たら恋ノ岐川左岸沿いに破線が描かれていて、しかも黒沢山手前の1313m峰東尾根なら傾斜が緩い顕著な尾根で、国道までほんの僅かであり、エスケープに最適だったのだった。非常時を考慮して地形図は少し広めに印刷しておくべきと思い知らされた。

 いきなり大きな不安要素ができてしまったが、この周辺の沢は水量が多く沢沿いに下るのは不可能、他にエスケープルートは無いので尾根上を進むしかない。ミョウカン山の下りは尾根幅が広く、ガスっていると東尾根に吸い込まれそうだが本日は視界良好で間違うことは無い。鞍部付近は東側の雪庇が落ちて尾根上は石楠花籔なので雪が残る西側を巻く。巻くのは概ね次の1570m鞍部までだった。

 1590m峰を越えた付近には数本の錆びたワイヤーがかかった木あり。索道の支柱代わりに使用したのだろうか。1570m鞍部から再び尾根上も雪に覆われるようになり快適に歩けたが、黒沢山直下は遠くから見えていたとおりに尾根東側の雪が落ちていて西側斜面を巻く。山頂が近づくと尾根に復帰し、入り黒沢山山頂に到着。

 雪庇の影響か、東側は樹林が開けて展望がいいが西側はシラビソが林立して展望を遮っている。これから下る北側は急激に高度を落とすので山頂からは様子が見えないが、この分では雪庇は落ちてしまっているだろう。青木山の尾根から見たらその部分は傾斜があり濃い針葉樹に覆われていたのでその可能性が高い。

 藪が待っていようと下界に帰るためには突っ込むしかない。下り始めの個所には黒焦げの枯れ木が立っていた。こんなところで山火事になるとは考えにくく、おそらく落雷が原因だろう。予想通り下り始めるとすぐに尾根が狭まり雪庇は無くなり、西側斜面も急斜面で雪も無ければ迂回もできず、尾根直上の石楠花藪に突っ込むしかなかった。アイゼンは外しているのでマシだが石楠花はとにかく引っかかりスピードは大幅ダウン。藪で見えないが岩壁上にいるようで東側は切れ落ちていて、藪に足をとられてよろめいて東にコケないよう細心の注意を払う。これでさらにスピードダウン。おまけに大ザックが藪に引っかかるし難儀した。たまに尾根西側直下の傾斜が弱くなって石楠花藪が薄まり、そちらを歩いた方が楽なこともあった。僅かに獣道があるようだが長続きしない。

 尾根が狭いので藪は濃いがルートに迷うことは無かったのだが、尾根直上に露岩が出現し直登は無理で西側を巻いて少し進んだところで行き詰まった。ここは傾斜が緩くて雪田がありカモシカの足跡と糞が残されていたが、この先はどこも急傾斜というより藪が生えた崖だった。最初は北側に下ろうとしたが恐ろしげな急傾斜でストップ。次に西側に下ろうとしたが、下に見える雪が乗った安全斜面まで10mくらいの高さがあるほぼ垂直の崖の上で、いくら何でもロープ無しで下るのは無謀な状況。しかたなく急な雪面を登って再び雪田へ。本当に困った! 地形図を見ても逃げられそうなルートは無く、それこそ往路を延々と戻るしかない状況だった。

 しかし天は我を見放さなかった。カモシカの足跡である。これがどこに続くか見極められればルートを見出せるかもしれないと気付いた。雪田をよ〜く見ると一目見て諦めた北へと続いている。恐る恐る藪を掻き分け先を覗きこむと露岩基部に沿って1本のルート(おそらくカモシカの獣道)が見出せた! かなりの急な下りだが周囲に立ち木があってそれらに掴まりながら下れそうだ。下りにかかると雪が消えてカモシカの足跡は追えなくなったが、少なくとも私の力量で下れるルートは1本しかなく迷うことは無かった。そして雪面が出てくれば傾斜が緩んで標高1520mの安全地帯だ。少し進んで木の隙間から後ろを振り返ると立派な岩峰が聳えていた。地形図では東側のみ崖マークだが、実際は両側が崖マークだ。藪の濃さは予想していたがまさか岩の危険性があったとは。黒沢山の登りもこんな感じだろうか。

 1520m肩では右の尾根に下る。この先は1330m鞍部付近までは東側の雪が落ちて尾根の西側の残雪を拾って下っていくが、鞍部付近は西側も藪が出てしまい尾根直上の石楠花藪の中を進む。鞍部から1360m峰の登りにかかると西斜面に残雪が現れて藪から開放されほっとする。1360m峰から1366m峰にかけたは尾根幅が広がり残雪豊富で快適に歩けた。1360m峰と1366m峰間ではワイヤーのかかった木がまた登場。

 1366m峰から下りにかかるとまたもや尾根上に藪が出てしまい、残雪を求めて西側斜面を巻く。1300m鞍部付近まで下るが尾根上は藪は続き、藪を避けて雪の上を歩き続けたら1330m峰の西直下までトラバースとなった。しかしその先で雪が消えて藪が出てしまっているので1330m峰へと登り返す。1330m峰〜1300m鞍部〜標高1320m地点までは尾根が痩せて両側の雪が落ちてまたもや石楠花藪漕ぎ。いったい何度目の藪だろうか。

 1364.9m三角点峰の登りにかかるが相変わらず尾根直上は藪で西斜面の雪を拾って登っていく。ピーク直下まで来ると尾根幅が広がって植生はネズコからブナへ変貌すると同時に尾根全体が残雪に覆われるようになり藪から開放される。1364.9m三角点峰もブナと残雪に覆われ藪は無くここで休憩することに。日差しが暑いのでブナの木陰に入り銀マットを敷いてザックを頭にしてしばし昼寝。既に時刻は午後3時を回っていて黒沢山までは届きそうもないのでこの後は幕営適地を探しながら歩こう。ぱっと先を見た感じでは1324m峰まではブナと残雪が続きそうだが、その先は黒いネズコの列らしい。今日は西寄りの風があるので風が避けられる場所が優先だ。こういうときに雪があると斜めの場所でもピッケルで整地すれば快適なテントサイトにできるので有難い。

 休憩しながら地形図を眺めて黒沢山の登りが岩壁で突破できなかった場合の対応を考えたが、結論は変わらず今の手持ちの地図では1324m峰から南西に落ちる尾根を下って往路の二岐沢沿いの林道へ下るしかないだろう。この尾根が下れそうな傾斜かどうか確認しながら進もう。

 1320m地点で尾根が左へと屈曲、右にはブナと残雪に覆われたなだらかで太い尾根が分岐していて風除けにちょうどいい場所であったが、まだ時間があるので先に進む。1330m峰から少しの間は雪庇を歩けたが、すぐに藪が出てきて雪が残る西側斜面を巻いた。1300m鞍部手前で尾根上も雪が覆うようになる。この付近からは1324m峰から南西に落ちる尾根が良く見えた。幸いにして見える範囲では尾根は雪に覆われており、しかもネズコの黒ではなく落葉したブナ樹林。これは非常にいいサインだ。ただし、途中から傾斜がきつくなってその向こう側が見えないのが不安だ。尾根上を行けなくなったら下タモギヤチ沢に下れればいいのだが、そちらの様子もここからは見えなかった。おそらく大丈夫と感じつつも100%の保証は得られないのであった。

 1320m等高線に上がるとまた尾根上は藪で残雪豊富な西斜面を巻く。1324m峰付近は尾根上から東側の雪が利用できた。問題の南西尾根入口は地形がなだらかなので不明瞭だが、方位磁石で確認しながら下れば大丈夫だろう。見える範囲ではずっと雪が続いていた。

 1324m峰から1270m鞍部手前までは東側にへばりついた雪庇を使えたが、鞍部付近から先は雪が落ちてまたもや石楠花藪漕ぎ。この状況は1300m峰まで続き幕営適地が発見できるのか心配になってきた。しかし下りにかかると東側に溶け残った雪庇が復活、雪庇表面は尾根より1,2m低い位置までずれているので西風がブロックされ都合がいい。鞍部まで下ってもこの状態が続いてくれたため、今夜の宿は1270m鞍部に決定した。おそらくこの先の 1313m峰より先は幕営適地はないだろうと思う。

 今日はまだ日が高いのでのんびりと水作りできた。しかし明日のコースは不安だらけで心の平静はない。最大の関門は黒沢山の登り。もしこれがクリアできなかった場合は1324m峰まで戻って南西尾根を下るしかないと決めたが、そうなる確率が高いのなら明日はまず空身で出発し、黒沢山へ登れそうか調査し、行けそうだと判断したら荷物を取りに戻って大ザックで黒沢山に向かうのが利口だろう。登れなかった場合に大ザックで無駄に往復ことになる。でももし登れる状態なら空身だが無駄に1往復することになる。悩んだ挙句、通過可能にかけてみることにした。しかし通過できずに戻ってくる可能性も考慮し、食料は節約気味にしてもう1泊に備えよう。とは言え今でも食欲不振で食料は充分に余りそうだが。酒の量も減らして就寝した。

 翌朝、昨夜暑くて途中で起き出したので昨夜より着る物を少し減らしたら明け方は少し寒さを感じた。気温は昨日より下がっているようで、一度踏んだ雪の表面はツルツルに凍っていた。朝も食欲不振でいつもより食べる量を減らした。担ぐ重さが減らないなぁ(笑)。念のためアイゼン着用して出発。

 1313m峰への登りは尾根東側に張り付いた雪庇が利用できたので藪を回避できたが、1313m峰を越えると東斜面の雪庇が後退して藪が出ている。西斜面も傾斜が急で残雪は無く尾根上の石楠花藪を進むしかないが、大ザックでは藪に引っかかりまくる。アイゼンも引っかかるが、どこで雪が出てくるか予想できないので我慢してそのまま歩く。尾根西側直下に何となく獣道がある区間もあり、そんな場所は各段に歩きやすかった。黒沢山が近づくと山頂直下は尾根東側は岩壁帯であるが、肝心の尾根筋は背の高いネズコが邪魔をして岩登りが必要なのか判断できなかった。

 1270m最低鞍部から緩やかな登りになるが藪は続く。今のところまだ危険個所は無いが、標高1300m以上の等高線高密度帯がヤバい。一度傾斜が緩んで西側に残雪が現れるので藪を回避できるが、その上部は雪が消えたかなりの急傾斜の石楠花藪が待っていた。ここで思案。地形図だと緩い傾斜でここから黒沢山西尾根にトラバース可能に読め、実際に雪面の傾斜はトラバースできる程度だ。ただし、樹林で見えないがぱっと見た感じでは西尾根取付個所は急斜面に見え、安全に乗り移れるか不安だ。とりあえずこのまま尾根を直進してみることにした。

 この先はえらい傾斜の、しかも石楠花藪に突っ込むのだから登るのは容易ではない。藪で先が見えないのもイヤらしい。あまりにも急で尾根形状を成しておらず、下りでこのルートを見出すのはほぼ不可能だろう。上から見下ろすとただの急斜面に違いない。藪で見えないがおそらく東側は絶壁だろう。登ることが可能な場所は限定されていて、僅かながら獣道もあるようで何となく筋が見えることも。ただし石楠花が横にも枝(幹?)を伸ばしている場所が多く、筋は長続きしない。

 大ザックとアイゼンでもがくように石楠花藪急斜面と格闘していると、突如として藪が切れて目の前に雪壁が現れた。その上部には藪も樹林も見えず広い空が見えていて、黒沢山山頂直下に達した思われた。たぶん山頂までの標高差は10m程度しかないだろう。藪と傾斜はひどかったが、うまい具合に岩に出ることなく最大の難関を突破したようだ。

 ここさえ上りきれば山頂だと思うとちょっとばかり安心できるが、残りの雪壁上りも気は抜けない。滑れば止まらない傾斜なので慎重に行動する。12本爪アイゼンの前爪を思い切り蹴りこみ、ピッケルも深く刺して滑落に備える。数歩上がると大半は雪に埋もれているが一部の枝が雪の上に顔を出した木があちこちに登場、ピッケルを持たない側の手はこの枝に掴まる。これで安全性が格段に向上した。そして傾斜が緩んで待望の黒沢山山頂に到着した。

 岩壁の南尾根と違って全体的になだらかで残雪に覆われているが、山頂南東端の最高地点は雪が溶けて藪が出ている。この時は危険地帯を突破できた安心感と、これから向かう黒沢の未知の状況による不安とが入り混じって、三角点を探そうという発想が出なかった。もし最高点にあるならば発見できた可能性が高いが、西側平坦地点に設置されていた場合は雪に埋もれて発見は不可能だっただろう。山頂からは西と北へは緩やかは太い尾根が張り出していた。

 大いに不安はあるが黒沢に向けて1160m鞍部へと北東尾根を下る。鞍部手前から北斜面に入り黒沢に出る手もあったが、どちらがいいかは現場の残雪状況を見て判断することにする。南尾根と違って東尾根は藪は皆無でブナと残雪に覆われた歩きやすい尾根だった。DJF氏が往復した無雪期には凄い藪だったそうだが、今は完全に雪に埋もれてその片鱗は見えない。下山ルート第二候補である1194m峰北尾根も良く見えているが、こちらは完全に雪が落ちて藪漕ぎだろう。しかも尾根上に繁茂しているのはブナではなくネズコと思われる針葉樹というのも悪い兆候。黒沢を下れなかった場合はこの尾根を下ろうと考えていたが、これは結構な藪漕ぎが予想される。黒沢が下れる状況であることを願うばかりだ。

 1160m鞍部へと下りながら北側斜面の状況を観察する。見える範囲の斜面の傾斜は適度で雪が残っており安全だが、その先の谷の様子が見えない。判断に迷いつつなおも下ると1220m肩から北に小尾根が分岐する。黒沢本流とこれまでの斜面を隔てる尾根で、ここもたっぷりの雪が乗っている。この尾根を下るのも良さそうだが最後は黒沢に消えてしまう運命だ。悩んだ結果、1160m鞍部から黒沢本流を下り、滝などで下れなくなったらこの左岸尾根で迂回することにした。

 1160m鞍部まで快適な雪稜が続き、左に下る細い谷が黒沢だ。上部は傾斜が緩やかでたっぷりの残雪に覆われているが、この先はどうだろうか。谷は緩やかに右へと曲がっていて先を見通すことはできない。黒沢に入ってすぐに熊の足跡が登場。今シーズン2回目だ。潜りの深さからして今朝のものではなく昨日日中のものだろう。当然ながら初日出発時から熊よけ鈴を付けたまま歩いている。谷を下ると徐々に幅が狭まるが危険個所は無く、快適な残雪歩きが続く。流れが顔を出す個所も皆無だ。心配していた滝の高巻きも皆無で全て雪の下らしかった。これだから残雪期は楽でいい。標高1000mを切ると右岸側からデブリが多数落ちていて、中には新しい白さのブロックもあり右手に注意しながら下っていく。

 標高870mで左から谷が合流。ここは山頂から北東方向の斜面を直接下ると出る谷で今回もここを下るか悩んだわけだが、こちらも雪に埋もれて快適に歩けそうな雰囲気だった。これより下流は谷の傾斜が緩んで滝が埋もれていそうな気配は感じられなくなったが、まだデブリの押し出しはあるので雪崩には要注意だ。国道の手前で1か所だけ穴が開いて流れが出た場所があったが、全体としては黒沢は歩きやすいルートだった。無雪期に苦労して下ったDJF氏には申し訳ないくらいあっけなく国道に出ることができた。ここまで来れば核心部は終了だが、銀山平までの残雪の国道歩きは長く、トラバースでの滑落に注意が必要だ。入り黒沢山や黒沢山の難関を突破できたのに、国道で滑って奥只見湖にドボンでは笑えない。

 雪が溶けた雨池橋の上でひっくり返って休憩。ここから銀山平まで約5時間、まだまだ先は長く体力を消耗するのでじっくりと休むのが肝心だ。往路より食料の重さ分が減ったとは言え、大ザックは相変わらず重い。アイゼンを脱いで出発、往路で小屋まで続いていた足跡は輪郭がぼやけてほとんど判別できなくなっていた。あの後は小屋に人が入っていないようだ。今日も湖面には釣りのボートが見える。あれで銀山平まで乗せていってもらえたらなぁ。アイゼンは必要最小限の場面だけで使い、できるだけ足元を軽くする時間を長くした。840m鞍部まで休まず歩こうとしたが僅かな上り坂でも体力を消耗、湯ノ子沢で小休止して840m鞍部到着。ここで大休止+荷物の虫干し。引き抜かれた手すりが荷物を広げるのにちょうどよかった。周囲からは雷鳴のような雪崩の音が頻繁に聞こえた。

 ここから北斜面に回り込むのでトラバースの斜度がきつくなり、出だしはアイゼンを装着して雪壁を登り、その後もアイゼンの出番が数回あった。しばらくは下り坂になるので格段に楽に歩けた。グミ沢トンネルを抜ければ除雪終点までもう少し。除雪終点の大ナラ沢に架かる橋の手前は急な雪面でアイゼン装着が面倒なので橋を渡らず雪に埋もれた沢をショートカット。雪が緩んでいるのでつぼ足でも直線的な登り下りなら可能だった。道路に上って僅かで除雪終点。硬い舗装道路は雪とは段違いの歩きやすさで体力消耗もごく僅かでるんるん気分で歩けた。今日も釣り客送迎用の地元の車が路側に停車していたが、朝とは違って台数は少なかった。そして車止めの横を通り抜けて駐車場到着!

 この時間の駐車場は釣り客ではなく一般観光客が目立っていた。家族連れの子供たちが道端の豊富な残雪で遊んでいる。この時期にこれだけの残雪を目にできる場所は少ないからなぁ。車の日陰で涼みながら着替えていたら2か所を虫に刺された。今シーズン初めてで、これからは虫よけスプレーと痒み止めも準備しないといけないか。

 着替えを終えてから3日間の汗と垢を落としに「白銀の湯」へ向かった。


まとめ
 もっと残雪で楽ができるかと思ったが、予想外の岩場と藪で苦労した。あの苦労を考えると周回ルートとはせずに黒沢山と大沢山は北側から、残り3山は尾瀬からアプローチするように2回に分けて登る方がいいかもしれない。特に黒沢山南側の尾根は大ザックでの通過は厳しすぎる。残雪期に黒沢から単純に往復するのが賢明だろう。

 また、銀山平からの国道歩きは釣り用の貸しボートをチャーターし、銀山平〜雨池橋付近を船で送迎してもらうことで全カットできるかもしれない。これは貸しボートの本来の使い方とは違うが貸しボート屋さんに相談してみる価値はあろう。たぶん船なら雨池橋まで片道30分もかからないだろう。歩けば往復で10時間近くかかるし、林道のトラバースでの滑落、雪崩の危険性も全てカットでき安全性も大幅アップできるので、ある程度コストがかかっても実現可能ならば利用価値は絶大である。なお、貸しボートを自分で操縦しようとしても船舶免許が必要なため、大多数の人はレンタル不可能である。宿の人に送迎してもらうしかないだろう。

 

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